今や、日本は超高齢社会となり、認知症の高齢者も増加しています。そのため、最近問題になっているのが「認知症による財産凍結」です。
認知症になると、預貯金が引き出せなくなったり、不動産などの財産が使えなくなったりすることを指します。財産が凍結されると、認知症の高齢者本人だけでなく、介護をする家族の生活にも大きな影響が出ます。
最近は「終活」ブームで、自分が亡くなった後の「相続」について考える人が増えていますが、認知症対策についてはあまり考えられていないのが現状です。私も認知症の母を数年間介護していました。そのため、「自分が認知症になったらどうしよう・・・。」という漠然とした不安を常に抱えていました。今後は「おひとりさま」の高齢者が増えることが予想されるため、相続対策だけでなく、認知症対策も多くの方々が検討しておく必要があります。
そこで、数回にわたって「認知症対策」についての記事をまとめていくことにしました。多くの方々に読んでいただければ幸いです。
認知症対策記事一覧
今回の記事では、どうやって認知症対策をするのか?についてまとめました。
認知症対策とは、認知症によって判断能力が低下し、財産が凍結される前に、事前に何らかの対策をしておくことです。つまり、「認知症対策=財産凍結対策」なのです。
認知症対策は大きく2つ
認知症対策は大きく2つに分類されます。
- 名義変更型
親が元気なうちに名義を変えておく対策です。たとえば、家族信託や生前贈与などがこれにあたります。家族信託は、親が信頼できる家族に財産を託し、その家族が親の代わりに財産を管理・運用する仕組みです。生前贈与は、親が生きている間に子どもや孫に財産を贈与することで、財産凍結を避ける方法です。 - 代理人型
親が認知症などで判断能力を失ったときに備えて、事前に代理人を決めておく対策です。たとえば、任意後見契約があります。任意後見契約は、親が自分の意思で後見人を選び、将来認知症になったときにその後見人が親の財産管理や生活支援を行うというものです 。
この中でも基本となる認知症対策は「家族信託」と「任意後見制度」です。
相続対策だけでいいんじゃない?
厚生労働省の発表によると、2023年の日本人の平均寿命は、男性が81.05歳、女性が87.09歳です。40年前と比較すると、男性は4年、女性は6年長くなっています。これだけ長生きする人が増えると、「相続対策」だけでは不十分ではないでしょうか?
相続対策として一般的に考えられるのは、遺言書の作成や相続税対策などです。これらは自分が亡くなった後のことについての対策です。しかし、平均寿命が長くなったことで、相続が発生するまでの期間が延び、その間の財産管理が重要になってきます。認知症になる前に対策をしておかなければ、子どもであっても親の財産を管理することができません 。そのため、元気なうちに、ちょっと早すぎると感じるうちに、認知症対策をしておく必要があるのです。
いつ認知症対策をしたらいい?
認知症対策の必要性はわかりましたが、では、いつ認知症対策をしたらいいのでしょうか?認知症になってから対策をすればいいと思いますか?
答えは、「判断能力があるうちに認知症対策をしよう!」です。
任意後見や家族信託などの認知症対策は「法律行為」です。そのため、判断能力が十分にあるうちにしか行うことができません。判断能力がない状態で行われた法律行為は無効となります 。
しかし、元気なうちに認知症対策をするのは現実として非常に難しいものです。多くのケースでは、親が認知症と診断されたり、病気で倒れてしまったりしてから家族が困ることが多いです。そのため、重ねて書きますが、元気なうちに、ちょっと早すぎると感じるうちに、認知症対策をしておく必要があるのです。
ただし、認知症と診断されたからといって、全く対策ができないわけではありません。判断能力があるかどうかは、それぞれの法律行為ごとに判断されるため、認知症だからといって一律に判断されるわけではありません。初期の認知症であれば、対応できる対策もあるため、行政書士などの専門家に相談してください 。
認知症対策は全部同じ?
たとえば、預貯金と不動産、自宅か賃貸かなどによって、認知症の対策は異なります。そのため、財産の種類ごとに認知症対策を検討していく必要があります 。
親が認知症になって、判断能力が十分にないとき、どうする?
判断能力が低くなった方を保護する制度が、成年後見制度です。これには以下の2つがあります。
- 任意後見制度:判断能力が十分なうちに自分で後見人を選んでおく
- 法定後見制度:判断能力が不十分となった後に、家族などが申立てることによって家庭裁判所が後見人を決定する
任意後見制度は、判断能力があるうちに信頼できる人を後見人として選び、将来に備える制度です。これに対し、法定後見制度は、判断能力が低下した後に家庭裁判所が後見人を選ぶため、家族の意向が反映されない場合もあります 。
さいごに
認知症は誰にでも起こり得る現実的な問題です。現在、日本政府は「認知症バリアフリー社会」を目指して様々な施策を打ち出しています。2023年には「認知症基本法」が成立し、認知症の予防や支援が法的に整備されました 。しかし、国の制度だけでなく、私たち一人ひとりが認知症対策を考え、早めに行動することが重要です。専門家の助言を受けながら、適切な対策を講じることで、自分自身や家族の将来に備え、安心して暮らせる社会を築いていくことができるでしょう。
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