スタートアップビザと経営管理ビザを比較する際、
多くの場合は「資本金」「事業計画」「雇用要件」などが注目されます。
しかし、実務において最初につまずくケースが非常に多いのが、
「居住物件の確保」です。
本記事では、福岡市および北九州市でのスタートアップビザ実務を踏まえ、
制度上の要件と、実際に直面する課題について整理します。
スタートアップビザでは居住物件の確保が申請要件となる
スタートアップビザ制度では、
上陸後(または在留資格変更後)の居住場所を、一定期間分、事前に明らかにすること
が求められています。
福岡市の場合
福岡市の案内では、次のような書類の提出が求められています。
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上陸後又は在留資格の変更後1年間の申請者の住居を明らかにする書類
(賃貸借契約書の写し、賃貸借の申込書の写し、賃貸借契約の見積書の写し等)
北九州市の場合
北九州市では、次のように整理されています。
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上陸後6か月間の住居を明らかにする書類
(賃貸借契約書の写し、賃貸借の申込書の写し、入居申込書等)
「6か月間の住居を明らかにする書類」に求められる考え方
この「6か月間の住居を明らかにする書類」は、
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上陸後、一定期間にわたり
-
市内(または近郊)で創業準備を行い
-
初回の在留期間更新を迎えることが現実的に可能な生活環境かどうか
といった点を確認する目的で求められているものと理解しています。
なお、これはあくまで実務対応の中で受けた説明や運用を踏まえた理解であり、
審査基準や判断は、自治体によって異なる可能性があります。
制度上は可能でも「申込すらできない」現実
制度上は「賃貸借の申込書や入居申込書」でも可とされていても、
実務ではそもそも申込書を出すこと自体が難しいケースが非常に多く見られます。
理由としては、
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日本に居住していない
-
在留カードがない
-
COEも未取得
といった状況では、
多くの不動産会社において申込自体が受け付けられないためです。
実際に複数の不動産会社へ問い合わせを行いましたが、
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「在留カードがない方は申込不可」
-
「日本在住でない方は受付できない」
-
「管理会社の規定上、海外居住者は不可」
といった回答が大半を占めました。
また、ある不動産会社では、
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日本在住の保証人をつけること
-
できれば日本人の保証人であること
-
そのうえで、別途保証会社にも加入すること
といった条件を求められたケースもあります。
しかし、スタートアップビザを検討している段階では、
日本国内に知人や協力者がいない申請者も多く、
この「保証人の確保」自体が現実的に不可能となるケースも少なくありません。
なお、
「大家さん個人の判断で対応できるのではないか」
と言われることもありますが、
管理会社が入っている物件の場合には、
管理会社の審査基準や社内規定が優先されるケースがほとんどであり、
大家さんの判断だけで進めることは難しいのが実情です。
半年分一括払いなど、現実的とは言い難い条件
中には、
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「6か月分を一括で前払いするなら検討可能」
-
「途中解約不可・返金なし」
といった条件を提示されるケースもありました。
しかし、
ビザの許可・不許可は申請後でなければ確定せず、
このような条件での契約は、
申請者にとって大きなリスクを伴うと言わざるを得ません。
ウィークリーマンションも万能ではない
ウィークリーマンションを検討する場合も、注意が必要です。
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会社ごとに契約条件が大きく異なる
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6か月分・1年分の一括前払いを求められる場合がある
-
途中解約不可・返金なしとされることがある
-
月ごとの更新制で比較的柔軟なケースもある
また、家族帯同の場合は、さらに選択肢が限られます。
実際、弊所では
ご家族数名分のウィークリーマンション確保をサポートし、スタートアップビザ申請につなげた実例
もありますが、相当な調整が必要でした。
民泊・ホテルは原則として適さないとされる理由
民泊やホテルなどの一時滞在施設については、
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居住の継続性が確認しにくい
-
上陸後1〜2か月分の滞在しか証明できない
といった理由から、
申請上、不利に評価される可能性が高いと考えられます。
※ただし、民泊やホテルの取り扱いについては、自治体ごとに考え方や運用が異なる場合があります。
実際の可否や評価は、提出書類の内容や滞在期間、申請者の状況等を踏まえて、個別に判断されます。
知人宅への間借りという選択肢
日本国内に知人や親族がいる場合、
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一定期間、居住可能であること
-
創業準備を行う生活拠点として使用できること
を説明できれば、
比較的現実的な選択肢となるケースもあります。
もっとも、この場合も
自治体や案件内容による判断が前提となります。
経営管理ビザとの大きな違い
この点は、スタートアップビザと経営管理ビザを比較するうえで、
実務上、非常に大きな違いの一つです。
経営管理ビザでは、
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申請時点で、居住物件の確保は必須とされていない
-
在留資格認定後に来日し、実際の生活状況や事業準備の進捗に応じて、
長期的な居住物件を検討・確保していくことが可能
とされています。
そのため、スタートアップビザと比べると、
申請前の段階で居住場所を確定させる必要がない分、
物件探しに関する初期ハードルは相対的に低いと言えます。
スタートアップビザ検討時は「住居」を最優先で考える
スタートアップビザを検討する際は、事業計画や資金計画と並行して、
居住場所の確保をできるだけ早い段階で検討することが不可欠です。
制度上の説明だけでは見落とされがちですが、
実務ではここが最初で最大のハードルになることも少なくありません。
※本記事は、福岡市・北九州市での実務経験に基づく事例紹介です。
自治体や時期により運用が異なる可能性があるため、必ず最新情報の確認と個別の検討が必要です。
当事務所のサポートについて
弊所では、スタートアップビザおよび経営管理ビザを中心に、外国人の方の在留資格申請を多数取り扱っております。
特に、
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日本国内に協力者や知人がいない方
-
来日前から準備を進める必要がある方
-
居住物件や事務所の確保に不安を抱えている方
といったケースについて、
申請全体の流れを見据えた実務的なサポートを行っています。
制度の説明だけでなく、
実際にどの段階で何が課題になりやすいのかを整理しながら、
一つ一つ確認し、申請につなげていくことを重視しています。
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