仕事と介護の両立は、ある日突然、自分の問題になります。
親が少しずつ弱っていく。認知症の症状が出てくる。病院や施設、介護サービスの手続きが必要になる。
それでも、自分の仕事は止まりません。
会社に行かなければならない。お客様に対応しなければならない。生活費も必要です。
近年、仕事をしながら家族の介護を担う人、いわゆるビジネスケアラーが増えています。
これは、単なる家庭内の問題ではありません。働く人の心身の負担、企業の人材確保、介護離職、地域社会の支援体制にも関わる、社会全体の課題です。
この記事では、政府や経済産業省の動きにも触れながら、私自身の在宅介護経験をもとに、仕事と介護の両立、そして早めの認知症対策・相続対策の大切さについて書きます。
この記事は、こんな方に読んでほしいです
- 親の介護と仕事の両立に不安がある方
- 家族に認知症の兆候があり、今後が心配な方
- 介護離職を避けたい方
- 介護サービスを使うべきか迷っている方
- 親が元気なうちに、相続や認知症対策を考えたい方
- 中小企業の経営者・人事担当者で、従業員の介護支援を考えている方
仕事と介護の両立は、もう特別な問題ではない
少子高齢化が進む日本では、働きながら家族の介護をする人が増えています。
経済産業省は、仕事をしながら家族の介護を行う人を「ビジネスケアラー」として位置づけ、企業経営上も重要な課題として取り上げています。
経済産業省の資料では、2030年時点でビジネスケアラーは約318万人、仕事と介護の両立困難による経済損失は約9兆円に上ると試算されています。この数字を見ると、介護はもはや「家庭の中だけで何とかする問題」ではないことが分かります。
介護を抱える本人は、仕事中も家族のことが気になります。
病院から電話が来るかもしれない。施設から連絡があるかもしれない。急に休まなければならないかもしれない。
そうした不安を抱えながら働き続けることは、想像以上に大きな負担です。
ビジネスケアラーとは
仕事をしながら、家族などの介護を担う人のことです。介護が始まっても、仕事・生活費・責任はそのまま続くため、本人に大きな負担がかかります。
中小企業では、介護の問題が見えにくい
大企業であれば、介護休業制度や相談窓口、社内研修などを整備しやすいかもしれません。
しかし、中小企業では事情が違います。従業員数が少ないため、一人が休むだけで現場が回らなくなることがあります。経営者や人事担当者も、介護制度に詳しいとは限りません。
従業員側も、会社に迷惑をかけたくないという思いから、家族の介護を抱えていることを言い出せない場合があります。その結果、介護の問題が表に出ないまま、本人だけが限界まで抱え込んでしまうことがあります。
経済産業省は、令和7年度に「中小企業両立支援ハブ事業」を進めています。これは、中小企業において仕事と介護の両立支援を経営課題として捉え、地域で継続的に支援する仕組みづくりを目指すものです。
介護と仕事の両立は、従業員本人の問題であると同時に、企業の人材確保や事業継続にも関わる問題です。特に中小企業では、早い段階で「従業員が介護を抱える可能性がある」という前提に立って、職場内で相談しやすい雰囲気を作ることが重要です。
制度はあっても、本人が言い出せないことがある
介護休業や介護休暇など、法律上の制度はあります。厚生労働省も、育児・介護休業法に関する情報や、企業による仕事と介護の両立支援に向けた支援ツールを公表しています。
しかし、制度があることと、実際に使えることは別です。本人が制度を知らないこともあります。
制度を知っていても、「今休んだら職場に迷惑がかかる」「評価が下がるのではないか」「介護の話を職場でしてよいのか分からない」と感じることもあります。
介護は、子育てよりも話題にしづらい面があります。親の認知症、排泄、徘徊、暴言、金銭管理、病院対応など、他人に話しにくい内容も多いからです。
だからこそ、企業側から「介護のことを相談してもよい」というメッセージを出すことが必要だと思います。そして、本人も限界まで我慢する前に、職場、地域包括支援センター、ケアマネジャー、行政窓口、専門職などに相談することが大切です。
私自身も、4年間在宅介護をしました
ここからは、私自身の経験を書きます。私は、認知症の家族を約4年間、在宅で介護しました。そのうち約3年半は、介護サービスを利用せず、ほぼ24時間ひとりで介護していました。
当時は在宅で仕事をしていたため、何とか介護を続けることができました。しかし、実際にはかなり疲弊していました。
自分の時間はほとんどありません。
夜中も気が休まりません。
仕事をしていても、常に家族の様子が気になります。
外に出かけても、すぐに帰らなければいけないような気がします。
何度も「逃げたい」と思いました。
それでも、家族に対する愛情や、これまでお世話になった感謝の気持ちがありました。だから、ボロボロになりながらも介護を続けました。でも、今振り返ると、もっと早く誰かに頼るべきでした。
今だから言えること
介護は、愛情だけで続けられるものではありません。本人を大切にしたいなら、介護する側も倒れない仕組みを作る必要があります。
「まだ大丈夫」と思っているうちに、介護は重くなる
介護は、突然始まることもあります。しかし、認知症の場合は、少しずつ進行していくことも多いです。
最初は、少し物忘れが増えた程度かもしれません。
同じことを何度も聞く。
薬の管理ができなくなる。
お金の管理があやしくなる。
病院の予約を忘れる。
家の中の片付けができなくなる。
その段階では、家族も「まだ大丈夫」と思いがちです。
私もそうでした。でも、「まだ大丈夫」と思っているうちに、少しずつ家族の負担は増えていきます。
そして、気がついたときには、介護する側がかなり疲れていることがあります。
介護サービスを利用することに、罪悪感を持つ必要はありません。
地域包括支援センターに相談することも、ケアマネジャーに相談することも、デイサービスを利用することも、決して「家族を見捨てること」ではありません。むしろ、介護を長く続けるために必要なことです。
介護が始まる前に、家族で話しておくべきこと
介護が本格化してから、家族で話し合おうとしても、うまくいかないことがあります。本人の判断能力が低下している場合、財産管理や契約、相続に関する意思確認が難しくなることもあります。
だからこそ、元気なうちに話しておくことが大切です。たとえば、次のようなことです。
- 介護が必要になったとき、どこで生活したいか
- 在宅介護を希望するのか、施設入所も考えるのか
- 医療や延命治療について、本人はどう考えているか
- 財産や預貯金を誰がどのように管理するか
- 認知症になった場合、誰に支援してほしいか
- 遺言書を作成する必要があるか
- 相続で家族が揉めないように、何を準備しておくか
こうした話は、元気なときには話しづらいものです。しかし、何も話さないまま介護が始まると、家族が本人の意思を確認できず、困ってしまうことがあります。認知症対策や相続対策は、「亡くなる直前に考えるもの」ではありません。本人が元気で、意思表示ができるうちに考えるものです。
行政書士として、認知症対策・相続対策でできること
介護そのものは、行政書士の専門業務ではありません。介護サービスの利用、要介護認定、ケアプラン、施設入所などについては、地域包括支援センター、ケアマネジャー、市区町村の窓口など、介護の専門機関へ相談することが大切です。
一方で、行政書士は、将来に備えるための書類作成や相続に関する手続きでお手伝いできる場合があります。たとえば、次のような分野です。
遺言書作成サポート
本人の意思を整理し、家族に思いを残すための遺言書作成をサポートします。
任意後見契約の準備
将来、判断能力が低下した場合に備えて、信頼できる人に支援してもらう仕組みを検討します。契約は公正証書で作成します。
財産管理・見守り契約の検討
判断能力があるうちに、生活支援や財産管理の方法を整理しておくことができます。
相続手続き
相続人調査、戸籍収集、遺産分割協議書の作成など、相続手続きの一部をサポートします。
ただし、紛争性がある場合、税務判断が必要な場合、不動産登記が必要な場合などは、弁護士、税理士、司法書士などの専門家と連携する必要があります。大切なのは、早い段階で全体像を整理することです。
「今すぐ何か契約しなければならない」ということではありません。まずは、本人の意思、家族の状況、財産の内容、介護の見通しを整理することが第一歩です。
介護を一人で抱え込まないために
私が自分の介護経験から一番伝えたいことは、一人で抱え込まないでほしいということです。介護をしていると、自分が頑張るしかないと思ってしまいます。
家族だから、自分がやらなければならない。
他人に頼るのは申し訳ない。
施設やサービスを使うのはかわいそう。
そう思ってしまうことがあります。
でも、介護する側が倒れてしまったら、介護は続きません。そして、介護する側の人生も大切です。
仕事を続けること。
睡眠を取ること。
外に出ること。
自分の将来を考えること。
それらをすべて犠牲にしなければならない介護は、長く続けることが難しいです。介護は、愛情だけでは支えきれません。制度、サービス、地域、職場、専門家、家族。使えるものは使ってよいと思います。
中小企業の経営者にも、介護の問題を知ってほしい
この記事は、介護をしているご本人だけでなく、中小企業の経営者の方にも読んでいただきたいです。従業員が介護を抱えているかどうかは、外からは分かりません。
仕事中に疲れている。
急に休むことが増えた。
集中力が落ちている。
そう見える背景に、実は家族の介護があるかもしれません。本人が言い出すまで待つのではなく、会社側から「介護の相談をしても大丈夫」という空気を作ることが大切です。大きな制度をすぐに作ることは難しくても、次のようなことから始めることはできます。
- 介護休業・介護休暇制度を従業員に知らせる
- 相談窓口や相談先を明確にする
- 介護を理由に相談しても評価に影響しないことを伝える
- 地域包括支援センターなど公的相談先の情報を共有する
- 急な休みや遅刻に備えて、業務を属人化しない
- 介護に関する社内研修や情報提供を行う
介護支援は、福利厚生だけの話ではありません。人材を失わないための経営課題でもあります。特に中小企業では、一人の離職が事業に大きな影響を与えることがあります。だからこそ、介護の問題を早めに共有できる職場づくりが重要です。
さいごに|介護は、準備と相談で変わります
仕事と介護の両立は、簡単ではありません。私自身も、家族を在宅で介護しながら、心も体も限界に近い状態になったことがあります。だからこそ、今ならはっきり言えます。
もっと早く相談してよかった。
もっと早く介護サービスを使ってよかった。
もっと早く、認知症になった後のことや相続のことを家族で話しておけばよかった。
介護は、本人だけの問題ではありません。家族、職場、地域、専門家が関わりながら、支えていく必要があります。そして、認知症対策や相続対策は、問題が起きてからでは遅いことがあります。
本人が元気なうちに、意思を確認できるうちに、少しずつ準備を始めることが大切です。
この記事が、仕事と介護に悩んでいる方、親の将来が気になっている方、そして従業員の介護支援を考える中小企業の方にとって、少しでも考えるきっかけになれば幸いです。
参考情報
- 経済産業省「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン」
- 経済産業省「令和7年度 中小企業両立支援ハブ事業」
- 厚生労働省「育児・介護休業法について」
FAMILY AND FUTURE PLANNING
認知症対策・相続対策は、早めの準備が大切です
介護が始まってからでは、本人の意思確認や財産管理、相続に関する準備が難しくなることがあります。
行政書士トラスト事務所では、遺言書作成、任意後見契約の準備、相続手続きなど、将来に備えるためのご相談をお受けしています。
介護サービスそのものについては、地域包括支援センターやケアマネジャー等の専門機関への相談が必要です。
当事務所では、認知症対策・相続対策に関する書類作成や手続き面からサポートします。
行政書士トラスト事務所
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