はじめに|この記事を読む前に
日本での起業や事業拡大を検討する外国人起業家・外国企業にとって、
「どの在留資格ルートを選ぶか」は、事業の成否を左右する重要な判断です。
特に、
-
まだ日本に会社がない
-
すぐに「経営・管理」ビザの要件を満たすのは難しい
-
しかし、日本(特に福岡)で本格的に事業を立ち上げたい
このような状況では、
福岡市のスタートアップビザ(外国人起業活動促進事業)が、
現実的かつ制度的に認められた選択肢となる場合があります。
一方で、スタートアップビザは
「誰でも簡単に取れるビザ」ではありません。
制度の趣旨を正しく理解せずに申請すると、時間とコストを無駄にするリスクもあります。
この記事では、
福岡市公式情報と実務経験の両方を踏まえ、
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福岡市スタートアップビザの制度の本質
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要件・流れ・注意点
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経営・管理ビザへの移行を見据えた考え方
を、外国人起業家・外国企業向けに専門的かつ分かりやすく解説します。
この記事は、次のような方のために書いています。
- ✔ 日本で起業を予定している外国人起業家の方
-
-
日本にまだ会社を設立していない
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まずは現地で市場調査・準備をしたい
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将来的に「経営・管理」ビザを取得したい
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- ✔ 日本進出を検討している外国企業の代表者・役員の方
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海外法人の日本拠点を立ち上げたい
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アジア統括拠点・日本支社を検討している
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資本金3,000万円以上の事業規模を想定している
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- ✔ 「経営・管理ビザ」一発申請に不安がある方
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要件を満たせるか判断がつかない
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失敗リスクを抑えて段階的に進めたい
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入管・自治体審査の考え方を理解したい
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- ✔ 福岡での起業環境・ビザ制度を正確に知りたい方
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インターネット上の断片的な情報に不安がある
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行政の公式制度に基づいた正確な情報を知りたい
-
専門家の実務視点も含めて理解したい
-
※
すでに「経営・管理」ビザの要件を完全に満たしている場合や、
短期的な滞在のみを目的とする場合は、
スタートアップビザが最適でないケースもあります。
福岡市スタートアップビザとは何か
福岡市のスタートアップビザ(正式名称:外国人起業活動促進事業)は、
「まだ日本で会社を作れていない外国人起業家」や「日本進出前の外国企業」に対し、
起業準備段階での在留を合法的に認める制度です。
通常、日本で会社経営を行うためには「経営・管理」ビザが必要ですが、このビザは:
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事務所の確保
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一定の事業規模
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資本金
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常勤職員
-
継続性・安定性のある事業計画
といった完成形に近い状態が求められます。
一方、スタートアップビザは、
「1年以内に経営・管理ビザの要件を満たすことが合理的に見込まれるか」
という視点で審査されます。
つまりこれは
“未完成な起業家のためのビザ”ではなく、“完成までの時間を合法的に確保する制度”
と言えます。
なぜ「福岡市のスタートアップビザ」が選ばれているのか
① 国が認定した正式制度(自治体独自ではない)
福岡市のスタートアップビザは、
経済産業省および出入国在留管理庁の制度に基づく正式な国家スキームです。
② 福岡市は「審査経験が非常に豊富」
福岡市は、日本で早い段階からスタートアップビザを運用してきた自治体の一つです。
その結果、
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どのような事業が評価されやすいか
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どの点が不許可になりやすいか
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更新・移行で何が見られるか
について、行政側も明確な判断基準を持っています。
👉 これは「通りやすい」という意味ではありません。
👉 “評価ポイントが比較的明確”という意味です。
③ 外国企業の「日本拠点設立」にも現実的
福岡市スタートアップビザは、
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海外法人の日本進出
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アジア統括拠点
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日本支社・子会社設立
-
日本市場テスト
といった外国企業の戦略的進出とも相性が良い制度です。
スタートアップビザの在留資格と期間
在留資格
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特定活動(起業準備活動)
在留期間
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初回:原則 6か月または1年
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更新:最長2年まで
※
この期間内に、
👉 経営・管理ビザの要件を満たし、在留資格変更を行う
というのが制度の前提です。
福岡市スタートアップビザの要件
① 対象者
以下に該当する外国人が対象です:
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福岡市内で新たに事業を開始しようとする外国人
-
日本に本格進出を検討している外国企業の代表者・役員
-
将来的に経営・管理ビザへの移行を前提としている者
※
「学生ビザ」「短期滞在」からの切替を検討するケースもありますが、
個別判断が極めて重要です。
② 事業内容の要件
福岡市のスタートアップビザは、
すべての業種・すべてのビジネスが対象になる制度ではありません。
福岡市では、
「福岡市の産業の国際競争力の強化」および「雇用の拡大」への寄与が期待できる事業
であることを前提に、対象となる事業分野を明確に定めています。
福岡市スタートアップビザの「対象事業」
福岡市スタートアップビザの対象となるのは、
以下のいずれかに該当する産業分野の事業です。
■ 知識創造型産業
高度な知識・技術・データを基盤とし、国際競争力の高い付加価値を創出する産業です。
例:
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フィンテック(FinTech)
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半導体関連事業
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ソフトウェア開発
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コンテンツ制作(デジタルコンテンツ等)
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ロボット関連産業 など
■ 健康・医療・福祉関連産業
医療・健康・福祉分野における技術革新や社会課題の解決に寄与する産業です。
例:
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創薬ベンチャー
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医療技術の研究・開発
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再生医療関連事業
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福祉用機器の開発 など
■ 環境・エネルギー関連産業
環境負荷の低減や持続可能な社会の実現を目的とする産業分野です。
例:
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グリーンテック
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クリーンエネルギー開発
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次世代蓄電技術
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地球情報システム(GIS)関連事業 など
■ 物流関連業
国内外の物流インフラやサプライチェーンの高度化・効率化に寄与する事業です。
例:
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グローバルSCM(サプライチェーンマネジメント)サービス
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3PL(サードパーティ・ロジスティクス)サービス
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国際宅配事業
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ドローン物流の研究・開発 など
■ 貿易関連業
福岡市の地理的優位性(博多港・福岡空港)を活用し、
市内産業の海外展開や国際取引を促進する事業です。
例:
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市内産品の海外販路開拓に資する事業
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博多港・福岡空港の機能を活用した国際貿易事業 など
※
貿易関連業については、単なる輸出入業では足りず、
「新規性」または「市内事業者の成長に大きく寄与すること」が求められます。
注意点:対象外となりやすい事業
以下のようなケースは、
スタートアップビザの趣旨に合致しないとして、明確に不利になります。
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実体のないペーパーカンパニー
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形式的に会社設立のみを目的とする事業
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市場性・成長性が説明できない事業
-
福岡市との関連性が極めて弱い事業
👉
スタートアップビザは、
「日本に滞在するための制度」ではなく、「福岡市で新たな産業を生み出すための制度」
である点が非常に重要です。
実務上の重要ポイント
起業準備活動計画書では、
-
自社の事業がどの産業分野に該当するのか
-
なぜその事業が福岡市で行われる意義があるのか
-
福岡市の産業・雇用にどのように貢献するのか
を、制度文言と矛盾しない形で明確に言語化する必要があります。
ここが曖昧な場合、
どれだけ資金力や経歴があっても評価されません。
③ 起業準備活動計画書【最重要ポイント】
スタートアップビザで最も重要なのが、
起業準備活動計画書です。
この書類では、少なくとも以下が求められます:
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事業の全体像(何を、誰に、どのように)
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なぜ日本・なぜ福岡市なのか
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1年以内に何を準備するのか(時系列)
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事務所確保の計画
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資金計画・投資計画
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経営・管理ビザへ移行可能である合理性
👉 「ビジネスプラン」ではなく、「入管・自治体審査用の計画書」
である点が極めて重要です。
申請から在留資格取得までの流れ
STEP 1:事前相談(推奨)
福岡市または行政書士などの専門家を通じて、
制度適合性・事業内容の整理を行います。
STEP 2:福岡市へ申請
起業準備活動計画書および関連書類を提出。
※ 原則として本人申請
※ 行政書士は書類作成・確認・進行管理をサポート
STEP 3:福岡市による審査
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書面審査
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必要に応じて追加確認
STEP 4:起業準備活動確認証明書の交付
-
起業準備活動確認証明書の交付について
-
福岡市による起業準備活動確認または起業準備活動更新確認が完了すると、
対象となる外国人起業家に対して、「確認証明書」が交付されます。確認証明書の受け取り方法
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審査が完了次第、
申請書に記載した連絡先宛に、福岡市の担当者から連絡があります。 -
指定された日時に、
福岡市役所(14階・経済観光文化局 グローバルスタートアップ推進課)へ来庁し、
確認証明書を直接受け取ります。
発行手数料について
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確認証明書の交付にあたり、
1件につき300円の発行手数料が必要です。 -
支払い方法や具体的な手続きについては、
起業準備活動確認が完了した後に、福岡市から案内されます。
実務上のポイント
この確認証明書は、在留資格「特定活動(スタートアップビザ)」を申請する際に必須となる重要書類です。
受け取り後は、速やかに出入国在留管理局での在留資格申請に進むことになります。 -
STEP 5:出入国在留管理局での在留資格申請
在留資格「特定活動」が付与されます。
提出書類について(福岡市スタートアップビザ)
福岡市スタートアップビザでは、
「起業準備活動確認申請」(新規)または
「起業準備活動更新確認申請」(更新)を福岡市に対して行います。
提出書類は、すべて日本語で作成する必要があります。
新規申請時の主な提出書類
新規で起業準備活動確認を申請する場合、主に以下の書類を提出します。
・起業準備活動確認申請書(福岡市所定様式)
・起業準備活動計画書(福岡市所定様式)
・履歴書(福岡市所定様式)
・1年間の居住予定を明らかにする資料
(賃貸借契約書の写し、入居申込書の写し 等)
・1年間の滞在費を明らかにする資料
(預金通帳の写し、残高証明書 等)
・該当する場合は、在学証明書・在職証明書などの補足資料
・パスポートの写し
※
提出書類の内容によっては、
追加資料の提出を求められることがあります。
更新申請時の主な提出書類
起業準備活動確認の更新を申請する場合は、
以下の点が新規申請と異なります。
・更新後6か月分の居住予定を明らかにする資料
・更新後6か月分の滞在費を明らかにする資料
それ以外の書類(申請書・計画書・履歴書等)は、
基本的に新規申請時と同様です。
申請先・提出方法について
申請先(提出窓口)
起業準備活動確認申請は、
福岡市の以下の部署が窓口となります。
福岡市
経済観光文化局
グローバルスタートアップ推進課
(※ 申請手続きの詳細は、事前にメールでの連絡・調整が必要です)
申請方法に関する重要な注意点
・申請は原則として申請者本人が行います
・行政書士は、申請書類の作成支援、内容確認、進行管理をサポートしますが、
代理での申請提出はできません
・提出後、内容確認や追加資料の提出を求められることがあります
- 実務上のポイント
-
福岡市スタートアップビザでは、
「書類が揃っているか」よりも「内容が制度趣旨に合っているか」が重視されます。特に、
・起業準備活動計画書と資金計画の整合性
・居住予定・滞在費の現実性
・1年以内に経営・管理ビザへ移行できる合理性が説明できていない場合、
形式的に書類を揃えても確認が下りないケースがあります。
よくある質問(FAQ)
Q. スタートアップビザ中に売上は必要?
A.
必須ではありませんが、
「進捗が全くない状態」は更新・移行で不利になります。
Q. スタートアップビザで家族を帯同することはできますか?
A. はい、可能です。
福岡市スタートアップビザ(在留資格「特定活動」)では、
条件を満たせば、配偶者や子どもを帯同することができます。
この場合、
家族は「家族滞在」ではなく、本人と同様に「特定活動」の在留資格が付与されます。
-
家族帯同の審査は「福岡市」ではなく「入管」が行います
-
重要なポイントとして、
家族帯同の可否を審査するのは福岡市ではありません。-
起業準備活動の確認・更新
→ 福岡市が実施 -
本人および家族の在留資格(特定活動)の許可
→ 出入国在留管理局(入管)が審査・判断
という役割分担になっています。
そのため、
福岡市で起業準備活動の確認を受けたからといって、
自動的に家族帯同が認められるわけではありません。 -
-
家族帯同で特に重視されるポイント(入管審査)
-
入管による審査では、特に次の点が重要視されます。
-
起業準備活動期間中の生活費を十分に賄える資金力
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帯同する家族分を含めた、少なくとも数か月分の生活費
-
日本での居住先の見込み
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帯同家族の人数・構成
スタートアップビザは、
起業準備期間中で収入が発生していないケースが多いため、
「自己資金の裏付け」が特に重く見られる傾向があります。 -
-
起業準備活動計画書との関係(実務上の注意点)
-
家族帯同を最初から予定している場合は、
-
家族構成
-
想定される生活費
-
住居の確保計画
などを、
起業準備活動計画書の内容と矛盾しない形で整理しておくことが望ましいです。ただし、
計画書に記載したからといって、家族帯同が保証されるわけではなく、
最終的な判断はあくまで入管が行います。 -
-
専門家からの補足
-
スタートアップビザでは、
-
本人:特定活動(起業準備活動)
-
家族:特定活動(帯同)
という形で在留資格が設計されます。
この点を誤って
「家族滞在ビザ」と説明している情報も多いため、
正確な制度理解が非常に重要です。特に、
帯同家族がいる場合は、
起業計画だけでなく「生活設計」まで含めた申請戦略が不可欠になります。 -
Q. 日本語が話せなくてもスタートアップビザは取得できますか?
A. はい、制度上、日本語能力は必須要件ではありません。
福岡市スタートアップビザ(在留資格「特定活動」)の取得にあたって、
日本語能力試験(JLPT)などの日本語要件は定められていません。
そのため、
日本語が話せない状態でも、
起業準備活動計画書の内容が適切であれば、スタートアップビザの申請自体は可能です。
ただし、日本で事業を経営していくという観点では、日本語能力は極めて重要です。
日本の行政手続きや実務では、
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行政機関とのやり取り
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各種届出・許認可申請
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銀行・取引先との対応
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雇用・契約関係
など、多くの場面で日本語での対応が前提となります。
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経営・管理ビザの新要件との関係
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スタートアップビザの最終的なゴールは、
在留資格「経営・管理」への変更です。近年の制度運用では、
経営・管理ビザにおいて、日本語能力(CEFR B2相当/JLPT N2相当)が
重要な評価要素として位置づけられています。具体的には、
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経営・管理ビザの申請人本人
-
または、事業に従事するフルタイムの従業員
のいずれかが、
B2(N2)レベル以上の日本語能力を有していることが求められます。 -
-
スタートアップビザ期間中の実務的な考え方
-
スタートアップビザは起業準備期間であるため、
この期間中に従業員をすぐに雇用しないケースも少なくありません。そのような場合、
-
日本語ができる従業員がまだいない
-
行政対応や制度理解に不安がある
という状況は、ごく一般的です。
この段階では、
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起業準備活動の進捗管理
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行政との窓口対応
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許認可申請や届出の整理
-
次回のビザ更新・変更を見据えたアドバイス
といった行政書士などの専門家による継続的なサポートを活用することで、
制度上のリスクを抑えながら準備を進めることが可能です。 -
-
当事務所のサポートについて
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日本語対応や制度運用に不安がある場合、
当事務所では、顧問契約という形での継続サポートも行っています。-
行政機関との連絡窓口
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許認可・届出手続きの管理
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在留資格の更新・変更に向けた随時アドバイス
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日本での事業運営における実務上の注意点の整理
など、
スタートアップビザ期間中から、経営・管理ビザへの移行を見据えた支援が可能です。 -
スタートアップビザから経営・管理ビザへの移行
最終ゴールは、
在留資格「経営・管理」への変更
です。
この際に見られるのは:
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実際に準備が進んでいるか
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計画と実態に乖離がないか
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事務所・資本金・事業実態
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継続可能性
👉
スタートアップビザ取得時点から、移行を見据えて設計することが不可欠です。
当事務所ができること【外国人・外国企業向け】
当事務所では、
「ビザを取る」だけでなく、「日本で事業を成立させる」ことを前提に
以下の支援を行っています。
✔ スタートアップビザ申請支援
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起業準備活動計画書の構築・ブラッシュアップ
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福岡市審査視点を踏まえた構成設計
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英文資料の日本向け最適化
✔ 在留資格手続き
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特定活動ビザ申請
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更新・経営管理ビザへの変更戦略
✔ 外国企業の日本進出支援
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会社設立
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事務所要件整理
-
日本側実務の設計
ご相談について
スタートアップビザは、
「制度を知っている」だけでは通りません。
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どのルートが最適か
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どこから準備すべきか
-
スタートアップビザが本当に必要か
これらはケースごとに全く異なります。
👉 詳細は Contactページ または 有料相談ページ よりお問い合わせください。
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